二月の或夜私等は富士の五合目の石室(いしむろ)に泊っていた。 何の為めにと聞かれても答えようのない山の誘惑に本気に引き付けられて、住居を背負った位の満足で着物も食物もそして其上に縄やかんじき等の七道具までルックサックに詰め込んだものだ。その中から取り出して、之れに寝れば寒さがかんかん音して跳反(はねか)えって終(しま)うなんかと自惚(うぬぼ)れて潜り込んだ寝袋。だが実は薄っぺらなもので皆簔虫(みのむし)然と転っている。石室の外には吹雪が激しかった。山腹に狂乱する冬が、私等の僅(わず)かばかりの命や火を見付け出して、一撃の下に粉砕為(し)ようと鬨声(ときのこえ)をあげて小屋に衝(つき)たって来る。その度毎に細い雪が何処からとも無く吹き込んで簔虫共は真白だ。誰れかが零下二十二度だよと云う。ああ寒い訳だと皆んな承知をする。思えば二日前には事務所の机に向っていたんだが、それも遠い十年前の生活のように消えて、今は蝋燭(ろうそく)の光に照らし出された此小さな世界だけだ。鮮やかに浮き出た此雰囲気が山友達と云うのであろう。誰れかは歌っている。一人は蝋燭の焔(ほのお)を見詰めている。焚火(たきび)の勢が衰えて行くように私等は朧(おぼろ)な眠りに落ちた。
| 名店名 |
住所 |
電話 |
| 妙楽湯 |
静岡県熱海市下多賀1118−8 |
0557-67-5526 |
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